大阪地方裁判所 平成10年(ワ)8461号 判決 2000年2月01日
原告 株式会社ユニオン
右代表者代表取締役 A
右訴訟代理人弁護士 深井潔
右補佐人弁理士 B
被告 株式会社ダイケン
右代表者代表取締役 C
被告 帝金株式会社
右代表者代表取締役 D
被告ら訴訟代理人弁護士 阿部幸孝
主文
一 被告らは、別紙イ号物件目録、ロ号物件目録及びハ号物件目録記載の各物件を製造、販売してはならない。
二 被告らは、原告に対し、連帯して金三六四万〇七四〇円及びこれに対する平成一〇年八月二六日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は被告らの負担とする。
五 この判決は一項及び二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
事実及び理由は、別紙事実及び理由記載のとおりであり、原告の請求は、主文一項及び二項掲記の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄 裁判官 高松宏之 裁判官 安永武央
事実及び理由
第1請求
1 被告らは、別紙イ号物件目録、ロ号物件目録、及びハ号物件目録記載の各物件を製造、販売してはならない。
2 被告らは、原告に対し、連帯して金509万7037円及びこれに対する平成10年8月26日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、「縦型埋込柵柱」の考案について実用新案権を有している原告が、被告らが製造、販売する物件は同権利(又は仮保護の権利)を侵害するとして、被告らに対し、同物件の製造、販売の差止めと損害賠償(実施料相当額)を求めた事案である。
なお、縦型埋込柵柱とは、例えば建物の出入通路とか駐車場において所望時に通路を区画することができるようにする柵柱(ポール)である。
(争いのない事実)
1 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。
(1) 実用新案登録番号 2149903号
(2) 考案の名称 縦型埋込柵柱
(3) 出願日 昭和63年5月27日
(実願昭63-70669号)
(4) 出願公告日 平成7年10月4日
(実公平7-43147号)
(5) 登録日 平成10年7月17日
(6) 実用新案登録請求の範囲
別紙実用新案公報(以下「本件公報」という。)の該当欄記載のとおり
2 本件考案の実用新案登録請求の範囲の請求項1は、次のとおり分説するのが相当である。
A 開口部A'直に埋設される外筒Aと、外筒Aに昇降自在に嵌装されたポールBとを備えた縦型埋込柵柱において、
B 前記ポールBは、底部に垂直な枢着軸5を備え、
C この枢着軸5を介して、底部裏面に水平方向の回転を自在にした取付け部材6を抜脱不能に取り付け、
D この取付け部材6と前記外筒Aの内面との間に、ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねCを設けた
E ことを特徴とする縦型埋込柵柱
3 本件考案の効果は次のとおりである。
ポールの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねの付勢により、ポールの重量を軽減するようにした本件考案によれば、柵柱の使用と収納の際の労力が共に軽減されるので、使用者が従来の重労働から開放されるとともに、その作動に耐久性があり、設備費もそれ程高額にならない。
さらに、枢着軸で、抜脱不能に定荷重ばねの取付け部材とポールを直接接続している本件考案によれば、特に径の太い大型のポールを備えた縦型埋込柵柱において、重量の嵩むポールの引き上げ操作の際の定荷重ばねの起動が該操作とともに確実に生ずるので、極めて有利である等の実用的効果がある。
4(1) 被告らは、別紙イ号物件目録、ロ号物件目録、及びハ号物件目録記載の各物件(以下「イ号物件」などといい、併せていう場合には「被告物件」という。)を、製造、販売している。
(2) 平成7年10月5日から平成11年5月末日までに、被告ダイケンが販売した被告物件の数量及び販売額は、別紙バランサーバリカー販売実績表記載のとおりであり、被告帝金が販売した被告物件の数量及び販売額は、別紙バランサー付バリカー出荷リスト記載のとおりである。
5 被告物件は、本件考案の構成要件Aを充足している。
(争点)
1 構成要件B及びC該当性
被告物件は本件考案の「枢着軸5」を具備しているか。
2 構成要件C該当性
被告物件のポールBの底部裏面には、枢着軸5を介して、水平方向の回転を自在にした取付け部材6が抜脱不能に取り付けられているか。
3 構成要件D該当性
(1) 被告物件の定荷重ばねCはポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えているか。
(2) 被告物件の定荷重ばねCは取付け部材6と外筒Aの内面との間に設けられているか。
4 損害の発生及び損害額(実施料相当額)
第3争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告物件は本件考案の「枢着軸5」を具備しているか)について
【原告の主張】
被告物件は、いずれも、ポールBの底部に垂直な枢着軸5を具備しているから、本件考案の「枢着軸5」を具備している。
被告らは、本件考案の「枢着軸5」は、ポールBの底部と取付け部材6の上面を連結する機能を有するのみのものと解すべきと主張するが、そのような限定は実用新案登録請求の範囲には何ら記載されていない。
被告らは、被告物件の枢着軸5は、ポールBを降下させた際に、定荷重ばねCを取り付けた取付け部材6が、外筒Aの内底面に衝突しないようにする機能を有すると主張するが、同主張は、本件考案の構成要件を具備しつつ、さらに別個の効果が付加されているとの主張にすぎず、本件考案の構成要件の欠如を主張するものではないから、理由がない。
【被告らの主張】
本件考案の「枢着軸5」は、定荷重昇降装置の欠点であるポールBとポールBの底部裏面を乗せた取付け部材6が離反することを防止するために、ポールBの底部と取付け部材6の上面を連結する機能のみを有するものと解すべきである。
被告物件の枢着軸5は、ポールBを取付け部材6の板枠に固定して回転自在に取り付ける機能のみならず、ポールBを降下させた際に、定荷重ばねCを取り付けた取付け部材6が、外筒の内底面に衝突しないようにする機能を有している。
したがって、被告物件は、本件考案の「枢着軸5」を具備しない。
2 争点2(構成要件C充足性)について
【原告の主張】
被告物件は、いずれも、ポールBの底部裏面に、枢着軸5を介して、水平方向の回転を自在にした取付け部材6が抜脱不能に取り付けられているから、構成要件Cを充足する。
【被告らの主張】
本件考案は、公知技術(実公昭43-31789号公報)を前提としつつ、同技術の欠点を解消するために、構成要件Cの構成を付加している。
しかし、ポールと定荷重ばねの共回りを防止する先行技術は存在しているから、構成要件Cを、単に、ポールBと取付け部材6を回転自在に連結した構成と理解すると新規性を欠くことになる。
そこで、構成要件Cは、ポールBの底部裏面と取付け部材6の上面とが離間しないように、枢着軸5で抜脱不能に直接接続した構成と限定して解釈すべきである。
被告物件は、いずれも、ポールBの底部に枢着軸5を具えてはいるものの、ポールBの底部裏面と取付け部材6の上面とが離間しないように直接接続する構成は採用していないから、構成要件Cを充足しない。
3 争点3(1)(被告物件の定荷重ばねCはポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えているか)について
【原告の主張】
(1) 本件考案の構成要件Dの「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」とは、本件考案に係る実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の記載(本件公報4欄13~14行、5欄21~23行、6欄4~5行)からして、重量のあるポールBの昇降操作が軽くできるようポールBの重力を軽減するためのものであれば足りる。
そして、被告物件は、いずれも、定荷重ばねCにより、ポールBの引き上げ荷重がポールBの重量より軽減されているから、被告物件においては、「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」という構成を具備している。
(2) 被告らは、本件考案の出願経緯をよりどころに、「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」とは、定荷重ばねCの巻収力とポールBの重力を釣り合わせ、ポールBの高さを該ばねCの伸長位置で保持する一方で、ワンタッチ状にポールBに加える外力によって平衡を破り、定荷重ばねCの巻収力とポールBの重力とを釣り合わせながら下降させるようにしたばねを意味すると主張する。
しかし、明細書から明らかな事項は、特許出願手続の経過の面に現われている出願人の意思を考慮する必要はなく、意見書や特許異議答弁書において出願人が発明の特徴を強調するために述べた事項があっても、特許請求の範囲等に記載されていない以上、特許請求の範囲を限定して解釈することはできない。また、被告らは、審査段階での補正前の明細書の記載に基づいて主張しているが、本件は適法に補正されているのであるから、補正後の明細書に基づいて本件考案を解釈すれば足りる。
【被告らの主張】
(1)ア 「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」とは、本件考案の出願手続中における原告の主張(平成5年7月9日付意見書(5頁15行~6頁4行)、平成6年12月14日付審判請求理由補充書(4頁1~6行、5頁21~27行)、平成8年10月24日付異議答弁書(4頁13~18行))及び本件明細書の記載(本件公報4欄49行~5欄4行)からして、定荷重ばねCの巻収力とポールBの重力を釣り合わせ、ポールBの高さを該ばねの伸長位置で保持する一方で、ワンタッチ状にポールBに加える外力によって平衡を破り、定荷重ばねCの巻収力とポールBの重力とを釣り合わせながら下降させるようにしたことを意味すると解すべきである。
イ 原告は、本件考案の「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」は、ポールBの重量を軽減するという効果を達成するための手段を適正に表現したものであると主張する。
しかし、ポール重量を軽減するという効果を達成し得るのは「定荷重ばね」に限られるのではなく、通常のコイルばねであっても十分にポール重量を軽減するという効果を達成し得るのである。しかも、「定荷重ばね」を用いてポール重量を軽減するという効果を達成し得る先行技術(実公昭43-31789号公報)が存在することに鑑みれば、本件考案は、通常のコイルばねや、先行技術では到底達成できない格別の作用効果を期待した考案であると解さざるを得ない。
したがって、原告の主張は失当である。
(2) 被告物件はいずれも、ポールBが自然下降する定荷重ばねCを採用しているので、定荷重ばねCの巻収力とポールBの重力は釣り合っておらず、ポールBを立設状態において固定する場合には、係止溝に係止ピンを係止することが必要となる。
したがって、被告物件は、「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」という構成を具備していない。
4 争点3(2)(被告物件の定荷重ばねCは取付け部材6と外筒Aの内面との間に設けられているか)について
【原告の主張】
(1)ア 被告物件の定荷重ばねCの一端は、取付け部材6に取り付けられたボビン11に連結され、他端は、連結部材Xを介して外筒Aの上端部内面に連結されている。
したがって、被告物件は、いずれも定荷重ばねCが取付け部材6と外筒Aの間に位置することになり、構成要件Dの「取付け部材6と外筒Aの間に・・・・定荷重ばねCを設けた」という要件を充足する。
イ 被告らは、登録異議の決定(特許庁平成6年審判第19917号)及び原告の別件考案(実公平6-40654号)の実用新案公報の記載を根拠として、定荷重ばねCが「取付け部材6と外筒Aの間」とあるのは、取付け部材6の上部で取付け部材6と外筒Aの間に定荷重ばねが取り付けられていることを意味すると主張する。
しかし、被告らが根拠とするものは、いずれも、本件考案の「取付け部材6と外筒Aの間」という要件を被告らが主張するように限定して解釈する根拠とはなり得ない。
(2) 被告らは、定荷重ばねCの取付部はユニット化されていないものと解すべきであると主張するが、本件考案は、実用新案登録請求の範囲において「定荷重ばねCの取付部はユニット化されていない」などと限定していないのであるから、被告らの主張は到底認められない。
【被告らの主張】
(1) 本件考案の定荷重ばねCの取付位置は、「取付け部材6と外筒Aの内面との間」となっており、定荷重ばねCの一端は取付け部材6に取り付けられており、他端は外筒Aの内面に取り付けられていることが判明するが、その位置関係は左右方向を表すのか、上下方向を表すのか極めて不明確である。
そこで、本件明細書記載の実施例(第1図)、平成10年4月13日付登録異議に対する決定の理由(9頁20行~10頁6行)、及び原告の別件考案の実用新案公報の記載(2欄13行~3欄8行)を斟酌すると、定荷重ばねCの取付位置は、「取付け部材6の上部で取付け部材6と外筒Aとの間」と解さざるを得ない。
被告物件の定荷重ばねCは、いずれも、ポールBの底面に具えられた取付け部材6に直接ボビン11を取り付け、当該ボビン11にその定荷重ばねCの他端が取り付けられているのであり、定荷重ばねCは明らかに取付け部材6の下方に取り付けられている。
したがって、被告物件の定荷重ばねCは、取付け部材6と外筒Aの内面との間に設けられていない。
(2) 本件考案の定荷重ばねCは、取付け部材6と外筒Aとの間に架け渡されて設けられるのであるから、ポールB、定荷重ばねC、外筒Aが分離できない構成となっている。
これに対し、被告物件の定荷重ばねCの上端は、外筒Aの上端部内面に着脱自在に取り付けられる連結部材Xの外周面に取り付けられているので、ポールB、連結部材X、定荷重ばねCは、外筒Aとは無関係に一体的にユニット化されている。このため、被告物件では容易に保守点検、部品交換が可能となっている。
5 争点4(損害の発生及び損害額)について
【原告の主張】
平成7年10月5日から平成11年5月末日までに、被告帝金が販売した被告物件の数量及び販売額は、別紙バランサー付バリカー出荷リスト記載のとおりであり、その売上合計額は、金7281万4814円である。本件実用新案権の実施料相当額は、上記売上合計額の7パーセントを下らない。
被告ダイケンは、被告物件を全て被告帝金に販売しており、他には販売していないのであって、被告物件の被告ダイケンによる製造と被告帝金による販売は相互依存的であり、両者間には関連共同性がある。
したがって、原告は、被告らの違法な被告物件の製造、販売により金509万7037円の損害を被った。
【被告らの主張】
(1) 原告は本件権利を実施しておらず、損害を被っていない。
(2) 平成2年以来取引業界は、いわゆるバブル経済の崩壊によって下降の一途をたどっており、平成7年10月から平成11年5月までの間の製造販売実績からすると、直接、間接の経費率が高く利益率は極めて低い。その上、本件権利の実施品は極めて実用化になじまず、原告においてすら実施していないような状態である。
したがって、本件権利の実施料相当額は、3パーセント程度を相当とし、高くとも5パーセントを超えることは相当でない。
第4当裁判所の判断
1 争点1(被告物件は本件考案の「枢着軸5」を具備しているか)について 別紙イ号物件目録、ロ号物件目録及びハ号物件目録の各記載から明らかなように、被告物件は、いずれも、ポールBの底部に垂直な枢着軸5を備えているから、本件考案の「枢着軸5」を具備している。
被告らは、前記第3、1【被告らの主張】記載のとおり、被告物件の枢着軸5は、本件考案の枢着軸が有する以外の機能も具備しているから、本件考案の「枢着軸5」にあたらないと主張する。
本件考案の枢着軸5は、被告らの主張するとおり、ポールBの底部と取付け部材6の上面を連結する機能を意図して設けられていることは、本件明細書の記載から認められる(本件公報3欄35~41行、4欄9~14行)。だからこそ、実用新案登録請求の範囲にも記載されているように、本件考案の枢着軸5は、ポールBの底部に垂直に設けられ、ポールBの底部と取付け部材6とを抜脱不能に枢着(回動可能に付けること)していることが必要となる(構成要件B及びC)。しかし、そのような構造を有してさえいれば、本件考案の枢着軸5に該当するのであって、そのような構造を有しつつ、本件考案が意図した機能のみならず、それ以外の機能も具備する枢着軸を、本件考案の枢着軸5から排除しなければならない特段の事情は認められない。
したがって、被告らの上記主張は採用することができない。
2 争点2(構成要件C該当性)について
構成要件Cは、「枢着軸5を介して、底部裏面に水平方向の回転を自在にした取付け部材6を抜脱不能に取り付け」とあるところ、被告物件は、いずれも、枢着軸5を介して、ポールBの底部裏面に水平方向の回転を自在にした取付け部材6が、抜脱不能に取り付けられているから、構成要件Cを充足する。
被告らは、構成要件Cは、ポールBの底部裏面と取付け部材6の上面とが離間しないように、枢着軸5で抜脱不能に直接接続した構成に限定して解釈すべきであると主張する。
しかしながら、被告物件においても、枢着軸5により、ポールBの底部裏面と取付け部材6の上面とは離間しないように取り付けられているから、被告らの主張を前提としても、被告物件は、構成要件Cを充足している。
なお、仮に、被告らの主張が、構成要件CをポールBの底部裏面と取付け部材6の上面とが接するように取り付けるものに限定するという趣旨であれば、失当である。 すなわち、本件考案の出願前に公知の定荷重昇降装置として、実公昭4331789号実用新案公報(乙13の9)記載のものが存在したところ、同装置は、柱体を支える定荷重ばねの一端を取り付けたブラケットと、定荷重ばねの他端を取り付けた環状の固定体とを組み合わせて一つのユニットに構成し、外筒の内面に固定体をねじ止めして該ユニットを外筒内に取り付け、上から環状の固定体を挿通して外筒内に嵌合させた柱体の底部裏面を、定荷重ばねの伸縮とともに昇降するブラケットの上面に乗せることにより、柱体と定荷重ばねとの共回りを防止する構成のものであったが、この昇降装置においては、柱体(ポール)を上昇させる場合に柱体の下部裏面とブラケット(取付け部材)の上面とが離間して、定荷重ばねが直ちに機能しないという欠点があった。そこで、本件考案は、この欠点を解消するために、枢着軸5によりポールBの底面と取付け部材6とを抜脱不能に取り付け、取付け部材6に取り付けられた定荷重ばねCの釣り合い定力を常にポールBに作用させるようにしたのである(甲2)。したがって、従来技術の欠点にいうポールの底面と取付け部材の上面との離間とは、ポールが静止状態から上昇動作へ移行する際、取付け部材に取り付けられた定荷重ばねの釣り合い定力がポールに作用しない状態をいうものと解される。
そうすると、ポールの静止状態においてポールの底面と取り付け部材の上面とが接しておらず、両者間に物理的間隔が存在していたとしても、ポールが静止状態から上昇動作へ移行する際、取付け部材に取り付けられた定荷重ばねの釣り合い定力がポールに直ちに作用するのであれば、静止状態における物理的間隔の存在をもって、従来技術の欠点と同様のポールの底面と取付け部材の上面との離間があると解するのは相当でない。
そして、被告物件においては、ポールの静止状態においても、ポールBと取付け部材6との間に物理的間隔が存在することが認められるものの(検甲1、検乙1、2)、枢着軸5を介して、ポールBの底部裏面に水平方向の回転を自在にした取付け部材6が、抜脱不能に取り付けられているから、ポールBが静止状態から上昇動作へ移行する際、ポールBの底面と取付け部材6の上面との間隔が増大することなく、取付け部材6に取り付けられた定荷重ばねCの釣り合い定力がポールBに直ちに作用すると認められる。
以上より、被告らの主張は採用することができない。
3 争点3(1)(被告物件の定荷重ばねCはポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えているか)について
(1) 本件考案の構成要件Dには、「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」とあるが、ここにいう「ポールBの重力に見合った釣り合い定力」は、ポールBの重力と何らかの関係性を有している必要があることは、その文言上明らかであるが、具体的にどの程度の釣り合い定力を意味するのかは、実用新案登録請求の範囲の記載からは、一義的に明らかでない。
(2) 本件明細書の実施例欄には、この点に関し、次のとおりの記載があることが認められる(甲2)。
ア 本件公報4欄27~29行
Cは外筒AとポールBとの間に設けられて、ポールBの重力と同等に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねである(下線は裁判所が付したもの。以下同じ。)。
イ 同4欄49行~5欄4行
外筒AとポールBとの間に設けられた前記定荷重ばねCは、その伸長位置で静止状態にあるポールBを支えるだけの座屈強さが付与されているとともに、上昇方向、下降方向に若干の外力が与えられた場合にその均衡が破れて、与えられた力の方向に自動的に巻収されるか又は伸長する力が与えられていることはいうまでもない。
ウ 同5欄21~23行
定荷重ばねに付与する釣り合い定力についても同様に、本考案の要旨に沿って少し強めにするか弱めにするかは適宜に設計変更し得る。
(3) 本件明細書の実施例には、「ばねの巻収力とポールの重力を釣り合わせ、ポールBの高さを該ばねの伸長位置で保持する一方で、ワンタッチ上にポールBに加える外力によって平衡を破り、ばねの巻収力とポールBの重力とを釣り合わせながら下降させるようにした定荷重ばねC」が開示されていることが認められる(前記(2)イ)。
しかし、それは、あくまでも実施例として記載されているにすぎず、しかも、定荷重ばねCに、特に「ポールBの重力に同等に見合った釣り合い定力」を具えさせたものであることが、その記載上明らかである(同ア)。また、本件明細書には、実施例に開示された定荷重ばねCに付与する釣り合い定力を、本件考案の要旨に沿って少し強めにするか弱めにするかは適宜に設計変更し得ると記載され(同ウ)、実用新案登録請求の範囲には、上記の「同等に」という文言が存在しないことからすると、「ポールBの重力に見合った釣り合い定力」とは、実施例のように「ポールBの重力に同等に見合った釣り合い定力」に限定されるものではないと解される。
他方、本件考案の効果(前記第2(争いのない事実)3)からして、定荷重ばねCが具える「ポールBの重力に見合った釣り合い定力」とは、ポールの重量を軽減し、柵柱の使用と収納の際の労力が共に軽減されるものである必要があるが、そのほかに、「ポールの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」を限定して解釈しなければならない記載はうかがわれない。
以上のことからすると、本件考案の「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」とは、「ポールの昇降操作を軽くできるように、ポールの重力を念頭に置いた上で定められた釣り合い定力を具えた定荷重ばね」と評価できるものであれば足りると解するのが相当である。
(2) 被告らは、本件考案の出願経緯を理由に、「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばね」を「ばねの巻収力とポールの重力を釣り合わせ、ポールの高さを該ばねの伸長位置で保持する一方で、ワンタッチ状にポールに加える外力によって平衡を破り、ばねの巻収力とポールの重力とを釣り合わせながら下降させるようにした定荷重ばね」と限定解釈すべきであると主張する。
ア 被告らは、原告が平成5年3月31日になされた拒絶理由通知(乙3)に対する同年7月9日付の意見書(乙4の1)の記載を、主張の根拠の一つとして摘示する。
しかし、同意見書は、同日付の手続補正書(乙5)記載の補正に基づく意見であるところ、同補正は、同年12月8日に要旨変更であるとして却下されており(乙6)、その後の登録手続は、出願時の明細書(乙1。以下「原明細書」という。)に基づいて行われている。
したがって、上記補正や意見書の記載は、本件考案が実用新案登録を受けることに何ら寄与するところがなかったのであるから、本件考案を解釈する際に、上記意見書において原告が主張したことを斟酌することは相当でない。
イ もっとも、原明細書は、平成7年5月11日付手続補正書で本件明細書の内容に補正されているところ、その補正によっても原明細書に開示された発明は拡張されていないはずであるから、本件考案を解釈するに当たって、原明細書の記載を斟酌することはできる。
乙1によれば、原明細書における、実用新案登録請求の範囲は、「開口部A’を地表Gに表して垂直に埋設される外筒Aと、外筒Aに昇降自在に嵌装されたポールBとを備えた縦型埋込柵柱において、前記外筒Aと前記ポールBとの間に、ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた形状記憶合金コイルばねCを設けたことを特徴とする縦型埋込柵柱」というもので、本件考案の「定荷重ばねC」は、出願当時、「形状記憶合金コイルばねC」と表現されていたものと認められる。そして、原明細書の発明の詳細な説明欄には、「形状記憶合金コイルばねC」に関して、本件明細書の前示した記載と同趣旨の記載がある(ただし、本件明細書で「定荷重ばねC」と記載されていた箇所は、原明細書においては「形状記憶合金コイルばねC」と記載されている。)。
したがって、原明細書の記載からしても、前記(1)の解釈が首肯されるものである。
ウ 本件考案は、平成6年10月4日、登録拒絶査定がなされたが、その理由は、「引用文献1(実公昭62-4566号公報)記載の縦型埋込柵柱の昇降駆動手段として、引用文献2(実開昭56-139786号のマイクロフィルム)記載のコイルばねを用いて釣り合い状態に支持させて、本願考案のようになすことは、きわめて容易である」というものであった(乙3、7)。
これに対し、原告は、平成6年11月30日、拒絶査定審判請求をしたが(乙8)、同年12月14日付の審判請求理由補充書(乙9の1)の中で、原告は、「本願考案で使用する形状記憶合金コイルばねは、明細書に記載するように、コイルばね自体に自動的に伸長する物性と、自動的に巻収する物性と、自動的に伸長位置を維持する物性とがあり、昇降自在の柵柱を下降させた位置に保持することも、上昇位置で保持することも、又、柵柱が在る位置で釣り合いを乱す程度の少しの外力を加えることによって、釣り合った荷重の柵柱をその伸長力で上昇させたり、巻収力で下降させたりすることができるものである。」(4頁1~6行)と主張したことが認められる。
しかし、同証拠によれば、上記主張は、「第1.引用文献1記載の柵柱の昇降手段として引用文献2のコイルばねを用いたとしても、本願考案のような作用効果を果たす縦型埋込柵柱とはならない。」との書き出しで始まる項において、主張されており、原告は、上記前段の主張に続いて、次のように主張している。
「端的に云うならば、引用文献2のコイルばねは、縮減方向の作用のみに限られるばねの復元力を利用して、荷重の軽減を図るものであって、本願考案に用いる形状記憶合金コイルばねの作用とは自然法則の利用方法が全く異なる。」(4頁10~12行)
また、原告は、同補充書の中で、「第2.本願考案に用いる形状記憶合金コイルばねの定義について」との書き出しで始まる項において、次のように主張している。
「本願考案における『形状記憶合金コイルばね』の作用は、前述のように、製作時に与えられた形状を記憶している板ばねをコイルに巻き、コイル形の巻収部分とそれに続く伸長部分との間に形成される座屈強さを柵柱の重量に釣り合わせることにより、上昇位置と下降位置とでポール2を静止させることができ、また、昇降させるときは、動かす方向に少しの外力を与えて上記の部分の釣り合いを崩し、ばね自体に具えられている巻収力、伸長力をポール2に直接的に作用させるものである。
引用文献1、2には、このようにしてばね自体に具えられている2方向の巻収力、伸長力並びに静止力を使用する例がないのであるから、これらの引用文献から本願考案を当業者に極めて容易に考案をすることができたと言える理由はない。」(5頁21行~6頁2行)
以上の原告の主張からすると、原告は、本件考案の登録出願が進歩性欠如を理由として拒絶されたことに対応して、審判請求理由補充書において、引用文献2で引用された「コイルばね」と対比するため、「形状記憶合金コイルばね」それ自体の一般的特性を主張するために、上記のような主張をしたものと認められる。したがって、上記主張は、「ポールの重力に見合った釣り合い定力」について主張したものとは認められず、上記主張が、「ポールの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばね」の意味を限定したものととらえることはできない。
エ 被告らは、本件考案の出願公告後の平成7年12月20日、登録異議申立をしたが(乙13の1)、原告は、これに対し、平成8年10月24日付で異議答弁書を提出し、同書面の中で次のように主張した(乙14)。
「 異議申立人は、原明細書にあった『形状記憶合金コイルばね』に関して甲第3、4及び5号証を挙げ、これを『定荷重ばね』と補正した点に関して種々議論しているが、本願考案の出願人は、いつもポールの垂直荷重と釣り合った応力を具えていて、かつ、ポールを昇降させようとする少しの外力によりその釣り合いが破れて自動的に伸長してポールを持ち上げたり、自動的に巻収してポールを下げたりする本願考案に採用したばねが、一般、通常に用いられているばねと異なり、製作時に与えられていた形状を記憶していて、ポールを上昇位置、下降位置、任意の高さにそれぞれ支承する特殊なばねであるところから、原明細書において、他のばねと区別するために『形状記憶合金コイルばね』なる用語を用いたが、該ばねをより的確に明瞭に限定するためにこれを『定荷重ばね』と限定した。」(4頁11行~21行)
以上のような、原告の主張からすると、上記主張も、「形状記憶合金コイルばね」及び「定荷重ばね」それ自体の一般的特性を主張しているものと認められる。
したがって、上記主張は、「ポールの重力に見合った釣り合い定力」について主張したものとは認められず、上記主張が、「ポールの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばね」の意味を限定したものととらえることはできない。
オ 以上より、被告らの主張を採用することはできない。
(5) 被告らは、「定荷重ばね」を用いて「ポール重量を軽減する」との効果を達成し得る先行技術が存在することに鑑みれば、本件考案は、通常のコイルバネや先行技術では到底達成できない格別の作用効果を期待した考案であると解さざるを得ないと主張する。
しかしながら、本件明細書の「考案が解決しようとする課題」欄には、定荷重ばねにより起立操作時及び収納操作時の労力を軽減するとともに、該操作時の柱体(ポール)の回転に定荷重ばねの共回りを生じさせないようにする前記公知技術(実公昭43-31789号公報に係る考案)が従来技術として摘示され、当該技術の欠点及び解決すべき課題として、次の記載がなされている(本件公報3欄35~47行)。
「しかしながら、この昇降装置は、柱体を下降させるときは、直ちにブラケットが押し下げられることから定荷重ばねの伸縮が生ずるが、柱体を上昇させる場合には、柱体の下部裏面とブラケットの上面とが離間して、定荷重ばねは直ちには機能しないおそれがあり、特に重量の嵩む縦型埋込柵柱のポールには初動力の軽減を期し難いという欠点がある。
以上のことから、起立操作時、収納操作時の労力を軽減するとともに、該操作時のポールの回転に定荷重ばねの共回りを生じさせないようにすることが望まれており、かつ、特に重量のあるポールの起立操作時の初動労力の軽減を図るようにした縦型埋込柵柱を提供することが、解決すべき課題となっていた。」
そして、本件明細書の「作用」欄には、次のように記載されている(本件公報4欄9~21行)。
「本考案縦型埋込柵柱は、ポールを引き上げようとする時、および下降させようとする時、何れの場合も定荷重ばねが有する釣り合い定力が、互いに抜脱不能に連結された取り付け部材ならびに枢着軸を介して直ちにポールに作用するので、重量のあるポールの昇降操作が軽くできる。
また、定荷重ばねを取り付けた取付け部材が、ポールの底部に垂設した枢着軸を介して、該ポールの裏面に水平方向の回転を自在にし連結されているので、起立操作時、収納操作時のポールの回転に追従する定荷重ばねの共回りは防止されている。
本考案は以上のようにして前記の課題を解決したものである。」
以上のことからすると、本件考案は、上記公知技術が解決した課題を解決しつつ、その問題点も解決する手段を開示した考案ととらえることができるが、それは、<1>ポールBの底部に垂直な装着軸5を備え、<2>この枢着軸5を介して、底部裏面に水平方向の回転を自在にした取り付け部材6を抜脱不能に取り付け、<3>この取り付け部材6と外筒Aの内面との間に、定荷重ばねCを設けた構成を採用したことにより、達成されていると解される。
したがって、本件考案の「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」の構成は、公知技術が既に開示していた技術を採用したものにすぎず、その構成自体によって先行技術では達成できない格別の作用効果を奏することを企図したものとは認められない。
よって、被告らの主張は、その前提を欠き失当である。
(6) 別紙イ号物件目録及びハ号物件目録の記載のとおり、イ号物件及びハ号物件は、ポールBの重量が21.6kg(クサリ内蔵のもの)又は19.5kg(クサリ内蔵でないもの)であるのに対し、ポールBの引き上げ荷重は5.6kg(クサリ内蔵のもの)又は3.5kg(クサリ内蔵でないもの)であるから、定荷重バネCは、16kgの釣り合い定力を具えている。また、別紙ロ号物件目録記載のとおり、ロ号物件は、同様に、ポールBの重量が14kg又は12.3kgであるのに対し、ポールBの引き上げ荷重は5kg又は3.3kgであることから、定荷重バネCは、9kgの釣り合い定力を具えている。また、被告物件のカタログ(甲3)には、「女性や年配の方でも力を必要とせずラクに扱えます。」、「だれにでも簡単に軽いタッチで上げ下ろしが可能です。」、「重い柱も軽々と上げ下ろしができるバランサーを内蔵」と記載されており、このことは、被告物件の現物である検甲1、検乙1、2からも裏付けられる。
以上のことからすると、被告物件の定荷重バネCは、いずれも「ポールの昇降操作を軽くできるように、ポールの重力を念頭に置いた上で定められた釣り合い定力を具えた定荷重ばね」であると評価できるので、本件考案の「ポールBの重力に見合った釣り合い定力を具えた定荷重ばねC」という要件を充足しているというべきである。
4 争点3(2)(被告物件の定荷重ばねCは取付け部材6と外筒Aの内面との間に設けられているか)について
(1)ア 本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「取付け部材6と前記外筒Aの内面との間に・・・・定荷重バネCを設けた」と記載されているが、被告らは、この記載の意味は、「定荷重ばねCは取付け部材6の上部で取付け部材6と外筒Aの内面との間」であると主張する。
本件考案の定荷重ばねCは、ポールBの重力を軽減するために設けられるものであるから、一端を外筒A又はそれと一体的に構成されているものに、他端をポールBに定荷重ばねによる釣り合い定力を作用させることができるものに取り付ける必要がある。そして、本件考案は、定荷重ばねCとポールBとが共回りすることを防止して定荷重ばねにねじれを生じさせないようにするため、ポールBに水平方向の回転を自在にした取付け部材6が抜脱不能に取り付けられているから、本件考案において定荷重ばねCの一端は、取付け部材6又はそれと一体的に構成されているものに取り付けられる必要がある。
そして、本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「取付け部材6と外筒Aの内面との間に、・・・・定荷重ばねCを設け」とは、以上のような定荷重ばねの取付位置の制約から生じる定荷重ばねの位置関係を表現したものと考えられる。しかしながら、本件全証拠によるも、本件考案の定荷重ばねCの取付位置を「取付け部材6の上部」と限定して解釈しなければならない理由は認められない。
イ 被告物件の定荷重ばねCの一端は、取付け部材6に取り付けられたボビン11に連結され、他端は、連結部材Xを介して外筒Aの上端部内面に連結されている。
したがって、被告物件においては、取付け部材6と外筒Aの内面との間に、定荷重ばねCが設けられていると認められる。
なお、仮に被告らが主張するとおり、定荷重ばねCは取付け部材6の上部で取付け部材6と外筒Aの内面との間に取り付けられる必要があると解したとしても、被告物件の定荷重ばねCの大部分は上記間に存在し、単に定荷重ばねCを収容するボビンが取付け部材6の下部にあるにすぎないから、実質的には、被告物件の定荷重ばねCは取付け部材6の上部で取付け部材6と外筒Aの内面との間に取り付けられているとみることができる。
(2) 被告らは、被告物件のポールB、連結部材X、定荷重ばねCは、本件考案と異なり、外筒Aとは無関係に一体的にユニット化されているため、被告物件では容易に保守点検、部品交換が可能となっていると主張する。
しかしながら、被告物件において、ポールB、連結部材X、定荷重ばねCがユニット化され、本件考案にない効果を奏しているとしても、本件考案の構成要件のすべてを充足し、本件考案の効果を奏していれば、被告物件は本件考案を利用しているというべきであり、本件考案にない効果をも奏することを理由に、被告物件が、本件考案の技術的範囲に属しないと解することはできない。そして、被告物件が、本件考案の構成要件のすべてを充足することは、これまで判示したことから認められる。また、本件考案の効果は、第2(争いのない事実)3記載のとおりであるところ、本件考案の構成要件をすべて充足する被告物件は、本件考案の効果をすべて奏しているものと認められる。
したがって、被告らの上記主張は失当である。
5 争点4(損害の発生及び損害額)について
(1) 被告らは、原告が本件考案を実施していないから、損害が発生していないと主張する。
本件全証拠によっても、原告が本件考案を実施しているとは認められない。しかし、被告らが、本件考案の実施品である被告物件を製造、販売するに当たっては、本来、本件実用新案権の権利者である原告から許諾を得なければならなかったのであるから、被告らが、原告に無断で本件実用新案権を実施した以上、原告が、少なくとも、実施料相当額の損害を被ったことは明らかである。
したがって、被告らの上記主張は採用することができない。
(2) 損害額について
ア 弁論の全趣旨によれば、被告ダイケンは、自ら製造した被告物件を、被告帝金にのみ販売し、被告帝金は、これを第三者に販売していたことが認められる。
したがって、被告物件の製造、販売に関し、被告ダイケンと被告帝金との間には相互依存的な関係があるというべきであり、被告らの行為には、少なくとも客観的な関連共同性があるとみるのが相当であるから、被告らによる本件実用新案権侵害行為について共同不法行為が成立するものと認められる。
イ 本件に現われた一切の事情を総合考慮すると、本件実用新案権の実施料相当額は、被告物件の販売価額に5パーセントを乗じて得られた額とするのが相当である。
ウ 前記第2(争いのない事実)4(2)記載のとおり、被告らの被告物件の販売数額は、別紙バランサ-バリカー販売実績表及び別紙バランサー付バリカー出荷リスト記載のとおりであって、被告ダイケンは、合計金3159万3513円の売上を上げ、被告帝金は、合計金7281万4814円の売上を上げている。
したがって、被告らが、共同不法行為責任に基づき、原告に対し、連帯して支払うべき実施料相当額は、被告帝金の売上に5パーセントを乗じた金364万0740円とみるのが相当である。